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放射線事故への備えと、その影響を受けた 人々の健康調査に関する勧告及び施策

金曜, 07 7月 2017 08:43
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“悪影響よりも多くの利益をもたらす(doing more good than harm)”という基本的な倫理原則が、事故管理の中心となるべきである。

背景

放射線事故の管理は、多くの倫理的問題をもたらす。核心的な疑問として、チェルノブイリ及び福島のいずれの事故後においても提起されたのは、事故に対する対応が悪影響よりも多くの利益をもたらしたかどうか(more good than harm)ということである。健康調査を含めて放射線防護対策の大多数は電離放射線の被ばくの影響を低減するために行われている。しかしながら、同時にその多くが、保健医療サービスの効果的利用を妨げるなどにより、被災者のみならず、被災していない人々の健康福祉(welfare)に大きな影響を与えることがあり(Vale及びAlbani、2017年)、様々な直接的及び間接的影響をもたらしている(Oughton、2016年)。また、倫理的配慮は、健康調査及び疫学研究の策定や実施においても重要である。

方法

悪影響よりも多くの利益をもたらす(doing more good than harm)という目的を実現するため、SHAMISENは事故管理と健康調査に対する総合的なアプローチが必要であると認識している。この目的は単純なものではなく、結果に関する異なる価値観、理解、そして不確実性によって複雑になる(表1)。それでもなお、倫理的課題に対応することは、最終決定の背景にある想定、潜在的な対立、そして理由を可能な限り透明にすることを確保する助けとなり得る。結果を評価する際に、これは不確実性に対応する上でバランスを取ることを含むであろう。例えば、避難又はその他の防御手段の社会的及び健康上の影響を過小評価する一方で、想定される被ばく線量や放射線の健康影響について過度に保守的であること(すなわち、適切な推定値よりはむしろ可能性のある最大被ばく線量範囲を選択すること)は、被災者のために適切な決定をもたらさないであろう。

担当者

緊急事態の事前準備、線量評価、避難、健康調査及びコミュニケーションに関わるすべての関係者;当局、学術機関及びその他の研究機関、NGOなども含まれる。

健康/医学調査と疫学の間の相違、及びそれらの目的と必要となるデータの違いを認識すること。

背景

放射線事故後の健康調査は、医学調査、健康調査、集団検診(健康スクリーニング)そして疫学のそれぞれの違いが明確でなかったため、円滑に実施されてこなかった。このことは、被災者、科学者及び当局の間に、健康調査の目標と期待される成果についての相互理解において、混乱と誤解を引き起こしてきた。

方法

健康/医学調査の目的は、事故によって影響を受けた個人が何らかの健康状態に苦しんでいるかどうかを評価することである。これには、健康診査やアンケート調査などを通じて、被災した個人との接触やフォローアップが含まれ、必要に応じた支援と治療を提供する基盤となる。健康状態は、放射線被ばくによる身体影響と、精神的なものやストレス関連性疾患のいずれも包含し得る。 一方、事故後の疫学研究の目的は、1)病院/健康保険登録制度を利用した「疫学調査」により、放射線被ばく/事故が疾患発生率/リスクに影響を及ぼしているかどうかを評価すること、及び2)可能であれば、分析的な疫学的研究手段を用いて、放射線の影響に関する我々の知識を向上させることである。また、このような研究は、より広範な社会的、経済的な影響とその影響を低減する方法を検討することも可能である。 健康/医学調査プログラムは疫学研究のために登録者名簿を提供することは可能であるが、それは不完全な場合もあり、さらに、疫学研究に使用する前には、その代表性の検証と収集された情報についての慎重な確認作業が必要である。すべてのプログラムや研究の目的と、期待される成果が人々に明確になるように、透明性を保つことが重要である。また、倫理承認も必要である。

担当者

保健機関、医療従事者、学術機関及びその他の研究機関

放射線防護専門家、医療従事者、専門家及び一般市民の間に放射線防護の文化を築くこと。

背景

放射線防護の文化は、住民がモニタリング結果を解釈し、それに基づいて既存の、或いはその可能性のある放射線被ばくに対する防護活動について十分な情報に基づいた判断を可能とするために不可欠な理解とノウハウと定義される(CODIRPA、2012年、p.83)。これは、放射線防護が科学の事柄であるばかりでなく、価値観や判断の問題でもあり、それ故にエキスパート、専門家そして一般市民の参加を必要とするものと理解される。過去の原子力事故や報告された研究は、熟練した放射線防護専門家が世界的にも不足しており、また、医療従事者は直接的及び間接的な放射線の影響に対処する十分な訓練を受けておらず、さらには、一般市民は電離放射線のリスク、特に低線量におけるリスクについて十分な情報提供を受けていない(あるいは誤った情報提供を受けている)ことを明らかにしている。

方法

我々は、放射線防護専門家と医療専門家の重要な役割を認識し、彼らの専門的な必要性に適合したトレーニング・コース、トレーニング資料及び情報説明会を提供する必要がある。医療従事者でない利害関係者や市民には、電離放射線に関する基本的な情報を準備し、利用できるようにしておく必要がある。また、コミュニケーション・チャネル(マスメディア、ソーシャル・メディア、ウェブサイト、専門家及び地元の通訳者による地元セミナーなど)が求められており、それらを整備し、維持する必要がある。誤った情報や不必要な懸念を避けるために、正式な当局代表者とメディア対応者では、あらゆる緊急事態に関連する不確実性と、迅速で透明性の高い首尾一貫した情報の必要性をより良く理解しておくべきである。 この情報には、防護対策に関するものと、人々が日常生活において被ばくを低減できる方法が含まれるべきである。このような対応は、事前に準備され、事故の初期相において実施され、長期回復期の間に強化されるべきである。

担当者

放射線防護当局及び専門家、国民保護当局、地元保健局、病院、教師及びメディア対応者

被ばく経路、事故の段階、全般的な状況、そして人々と社会の様々な懸念事項やニーズに応じて、線量測定及び個人の被ばくモニタリングを適合させること。そして、必要に応じて線量評価の改善又は新たな方法を策定すること。

背景

線量評価は、事故対応する作業員から、周辺地域内に居住する一般の人々まで、個人の放射線防護において重大な課題である。原子力又は放射線事故後の線量評価は、迅速な医療支援、放射線防護対策、そして、その後の健康調査と疫学プログラムの実施など、多くの目的にとって極めて重要である。用いられる線量測定システムは、被ばく経路と線量範囲に対して適切なものでなければならず、初期及び中期相における線量測定における懸念事項は、その後の段階のものとは異なることに注意することが肝要である(表2及び3)。

方法

初期では、事故による放射線影響の初期評価は、予測される放射性物質の放出に基づいて行われ、緊急時の対策(屋内退避、避難、安定ヨウ素剤投与)について決定するために利用されるべきである。中期において個人データ、及び/又は環境データが利用可能になれば、線量評価は、1)作業員に関しては、医療的な配慮を必要とする人々を同定すること、そして適切な放射線防護を確保すること、 2)住民に関しては、系統的な対策(例えば、避難の拡大)や、長期的な健康調査やコミュニケーションについての判断を支援することに焦点をあてるべきである。長期及び回復期では、影響を受けた個人の線量の評価及び再構築は、i)被ばく状況についてのコミュニケーションを含む個人と社会のニーズ、ii)適切な健康調査プログラムに関連する社会的ケアの整備と実行可能な適用、そして iii)適切な場合には、影響を受けた人々への健康影響の可能性を評価するための疫学研究の支援に向けられるべきである。 初期に収集されたデータの種類と質は、極めて重要であることに注意すること(特に、131I のような短半減期の放射性核種における甲状腺の生体内測定)。なぜならば、それは健康調査プログラムと疫学研究の実施に不可欠な情報を提供するからである。

担当者

放射線防護当局、原子力企業、学術研究センター及びその他の研究センター

人々の全般的なwell-being(良好な状態)を目標とし、放射線の影響のみならず、放射線事故により引き起こされた心理的、社会経済的な影響にも取り組む健康調査戦略を推進すること。

背景

WHOによると、「健康とは、身体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に病気を持たない、或いは病弱でないことではない」(WHO、1948年)。過去の事故から得られた最も重要な教訓の一つは、事故の悪影響と健康調査の想定される利益は、放射線被ばくの直接的な影響をしのぐということである。これらには、ストレスや不安、或いは緊急避難によって引き起こされる心理社会的影響と健康への影響の他に、地域社会へのアクセス、或いは伝統的な慣行や生活様式の確保などの社会経済的、文化的及びその他の社会的影響が含まれる。長期にわたる社会的及び経済的困難は、被災した人々の様々な生活習慣病の発生と関連する可能性もある。調査の結果を十分に引き出すためには、効果的な調査戦略を策定する必要がある。

方法

事故がもたらした社会経済的、及び社会的激変による心理社会的及びその他の間接的な健康への影響を、特定、測定、評価し、かつその提供を低減するためには、健康調査の集学的アプローチが必要とされる(R24も参照)。かかるアプローチには、心理学者、精神保健専門家、社会学者、健康経済学者、放射線防護専門家、疫学者、一般医、そして地元住民の懸念と期待を尊重することのできる利害関係者(Stakeholder)の参加を含むべきである。地域の健康福祉の再活性化は特に重要な考慮すべき事項であるが、しばしば当局への不信が障壁となるため、特に地元の医療従事者や関係者の参加が促されるべきである。

担当者

保健当局、医療専門家、学術研究センターやその他の研究センター、地元住民

健康調査において、しっかりと被災者の自主性と尊厳が尊重され、かつ、リスクと影響の配分が不公平にならないよう配慮すること。

背景

尊厳と自主性という倫理的価値観は、通常、被災者の自己決定権と選択の自由と関連している。一方、公平性と正当性という倫理的価値観を尊重するためは、リスク、費用そして利益が配分される方法の重要性を強調する必要がある。

方法

人々が自らの生活や状況をコントロールできるように支援する活動は、彼らの尊厳を高めると同時に、自主性を尊重することになる。例えば、放射線測定機器(WBC3、線量計や食品モニタリングなど)や情報提供によって、住民が自らで意思決定し、活動できるよう促すことができる。さらに、放射線防護対策の施行ならびに解除に関する決定にも住民が関与できるよう支援することも可能となる。個人の尊厳もまた尊重されるべきである。これには、収集された(特に生活様式と健康に関する)個人データの性質、その保管方法(アクセス方法、アクセス可能者及び個人の非特定化など)、使用方法及び結果の普及方法(本人以外に提示されるすべての結果は、秘匿化されるべきである)が含まれる。健康調査に関しては、調査への期待とともに、参加者が期待する調査の利益と費用にも注意を払う必要がある。そして、研究計画の際には住民を含むことが重要であると強調している。リスクと利益の配分に対する配慮には、子どもに対する特別な配慮と責任に加えて、短期から長期にわたって、健康への悪影響や社会環境と教育の混乱に起因する事故の影響から生じ得る不平等を、認識し是正する努力が含まれるであろう。(この点について追加事例が下記のR9、R15、R18、R22~25 に挙げられている。ST1及びST2の要約-付属書1も参照のこと)。

担当者

保健当局、医療専門家、学術研究センター又は非学術研究センター、地元住民

がん登録に特に重点をおいて、既存の健康モニタリング・システムを評価し、必要に応じて疫学調査のために改善する又は新たなシステムを構築すること。疾病登録は国内及び国家間のより良い協調と連携を通じて拡大されなければならない。データ保護及び倫理規則に関連するすべての側面に取り組み、そして解決する必要がある。

背景

健康制度及び健康モニタリング・システムは、欧州の国々によって、また国内においても大きく異なる(WHO、2015年)。さらに、健康モニタリング・システムが、地方レベルで、或いは地域レベルでさえ、或いは十分に正確な診断レベル(例えば、疾患亜型など)で、疾病罹患率に関するデータを常に提供できるとは限らない。これは、検証されたデータの欠如、 統一された診断定義を設定することの困難さ、及び/又は、国内及び国家間において既存データベース間の連結ができないなどが理由であろう。異なる欧州諸国において地域レベル又は国家レベルで多くの疾病登録が存在するが、モニタリング・システムの完全性、データの利用可能性、そして欧州全域で健康・社会サービスの利用において日常的に収集される他のデータとの連結の実現性について評価することが求められている。

方法

欧州各国における健康モニタリング・システムを分析する: • 疾病登録を精査し、特に包括する範囲、網羅性、記録された疾患及び診断基準を説明する。 • 代替となる健康データベースの利用可能性とそれらの健康モニタリングとしての信頼性、及びその他の健康・社会サービス記録(健康保険、病院退院記録、その他の国営監視施設など)の利用を精査する。 • 各国におけるデータ保護と倫理規則を精査する。 • 国内及び国家間でのデータベースの連結における問題を同定する。 • 各国の健康モニタリング・システム及び公的診療記録における重要なギャップを同定する。 ギャップや制約が特定された場合には、健康モニタリング・データベース、できれば疾病登録を改善するか、又は新たに構築する。以下のため情報を提供する:i)一般的な健康調査と疾病発生頻度の特徴付け、ii)一般住民及び作業員に関する疫学、iii)実施可能な調査戦略の有効性と費用対効果の評価。倫理指針を尊重し、個人データ保護を確実にする一方で、災害が発生した場合の効果的な欧州の健康モニタリング・システムを構築するために、データベースの連結を可能にするための改善を提案する。

担当者

保健当局、学術研究センター及びその他の研究センター、倫理委員会

屋内退避、避難、そして安定ヨウ素剤配布のプロトコルについての計画を立てること。計画では災害弱者(例えば、小児や妊婦)を優先すること、そして避難がもたらす健康への影響可能性、特に入院患者や介護福祉施設入居者の避難に際して発生しうる健康影響、に対する生命保護措置との適切なバランスを取ること。

背景

屋内退避と避難は、緊急時において、住民のための効果的な放射線防護策となり得る。しかし、無計画な避難は、混乱状態、道路交通事故の増加や負傷を引き起こし得る。入院患者や介護福祉施設の高齢者は、基礎疾患の悪化のために、深刻な生命危機に関わる状態となる可能性がある。交通渋滞は、避難する時間を長引かせ、放射線量を減少させるのではなく、増加させる結果となる可能性がある。避難は、影響を受けた個人のみならず、より広範な経済及び社会のいずれに対しても長期にわたり影響を及ぼし得る(R15を参照)。 チェルノブイリの事故後、放射性ヨウ素に被ばくした小児及び若年者において、線量依存的に甲状腺がんがかなり増加した。特に、被ばく時に最年少であった小児の間で最大であり、安定ヨウ素の欠乏がリスクを上昇させた可能性があることはよく報告されている。この事実にもかかわらず、福島の事故において住民が安定ヨウ素錠剤を必要としたか否かについては、大きな混乱があった。

方法

計画には、放射線に対して感受性の高い人々(妊婦、小児)、特別なケアを必要とする人々(入院患者、介護福祉施設入居者、障がい者)及び独特のニーズのある人々(囚人など)を特定すること、同時に個人防護についての情報を住民に発信する(すなわち、内部及び外部被ばくから自分自身を防護する方法)必要がある。適切な構造及び利用可能な生活資源(水、食料、電力など)のある屋内退避の施設が指定されるべきであり、避難計画では、避難者の様々なグループ(入院患者、介護福祉施設入居者など)の特別なニーズを考慮した避難経路、移動手段及び移動先が考慮されるべきである。 • 長期にわたる屋内退避が選択される場合、病院職員数の減少や施設の適格性(例えば、効果的な空調)を考慮し、施設の基本的機能を維持するための補助職員と生活必需品の確保など、病院や介護福祉施設に関する特別な計画が立てられるべきである。 • 安定ヨウ素剤の投与に関する計画には、事故が発生した場合に備えた保管場所、配布方法、投与基準及び投与の責任者を含む必要がある。ヨウ素欠乏地域では、公衆衛生方針として、小児に対するヨウ素補給プログラムを考慮すること。

担当者

放射線防護当局、国民保護当局及び保健当局、病院。

放射線被ばくを低減させ、避難又は移転によって引き起こされる健康への悪影響を避け、そして、必要な医療と心理的な援助を提供するために、屋内退避と避難のタイミング、及びその支援を最適化する。

背景

R7で概説した屋内退避及び避難計画の迅速な実施では、混乱、不必要な放射線被ばく、或いは入院患者や高齢者への生命に関わる影響を避けることが求められる。住民避難を遂行する上で必要とされる資源や後方支援の問題に加え、その他の主要な問題として、放射線量、防護措置、予測される避難の期間、そして移動手段など、住民に提供される情報が不十分であることが挙げられる。

方法

避難を行うのか否か、そしてその時期に関する決定は、放射線とそれ以外のリスクとのバランスを取りながら、健康リスク全体についての最良の評価に基づいて行われるべきである。特に、放射性プルームの到達する範囲内にあるが、被ばく線量が避難を必要とするレベルではないと推定される地域では、屋内退避と個人の防護手段が常に最優先されるべきである。避難を実施する前に、適切な避難経路を特定・確保し、移動・搬送手段とその他の支援手段を準備する必要がある。例えば、街区毎の避難を段階的に進めるなどして、大規模人口集団の同時避難は避けるべきである。屋内退避勧告は、これを効率良く実施する方法(すなわち、食糧、水、電力などの十分な資源 -R9を参照)に関する指導を並行して提供し、併せて、小児に対する安定ヨウ素剤の投与などその他の防護手段と組み合わせて行われる必要がある。保健当局は、屋内退避、或いは避難の間も、入院患者や介護福祉施設入居者の介護の継続を確保しておく必要がある。更に、屋内待避や避難に際しては、住民への情報提供と心理的支援が含まれることになる。

担当者

放射線防護当局、国民保護当局及び保健当局、病院。

できる限り早急に避難勧告の解除計画を立てること。これは避難者及び地域社会の身体・精神健康に及ぼす避難の悪影響を最小限に抑えるためである。

背景

福島とチェルノブイリの事故は、メンタルヘルスの問題や生活習慣病(糖尿病、アルコール依存症、高血圧症、体重増加等)など、長期の避難による重大な健康問題の発生を明らかにした。最大の困難は、別れ別れになり、家や仕事を失い、そして見知らぬ場所に移転した避難家族に降りかかった。また、家族や地域社会内における、事故の健康への影響可能性に関する意見の相違など、複雑な心理社会的な問題も生じた。さらに、避難は重大な社会的そして経済的費用を生じる。

方法

避難の解除基準は可能な限り早急に決定されるべきであるとはいえ、長期に及ぶ避難又は移転が生じる可能性が高い場合には、住民に対する適切な支援が提供されなければならない。適切な防護措置を伴った一時帰宅は、住民が自宅に残してきた身の回り品やペットの世話をし、自宅の安全の確認や掃除ができるように、考慮されるべきである。避難の解除基準は、避難地域の放射線被ばく線量の評価に基づくべきであるが、実際の決定は、利害関係者との協議を通じて行われるべきである。かかる決定は、放射線に係る基準だけでなく、社会、文化及び経済的側面に基づいても行われるべきである。これには、放射線状況の進展の評価と、避難地域の予想される将来に関する決定において、地域の利害関係者を関与させる枠組みを作り上げることが求められる。状況についての共通した評価は、避難者の不確実性を軽減し、自らの将来に関して決断する上での支援の一助となりうる(R23も参照)。

担当者

放射線防護当局及び専門家、地元の利害関係者、中央政府。

責任と役割が明確に提示された初期対応及びコミュニケーション・プロトコルを策定すること。適切な利害関係者をこれらのプロトコルの策定に参加させ、一般市民(ソーシャル・メディアを含む)とのコミュニケーションを取るための必要な材料とチャネルを準備すること。

背景

原子力事故に続く即時対応は、迅速かつ協調的であり、出来る限り科学的根拠に基づく必要がある。過去の原子力事故(Prezeljら、2016年)及び多くの報告(Dalnoki-Veressら、2014年)は、放射線緊急時におけるトレーニングの適切性、指揮系統の認識度、そして情報伝達におけるギャップに加えて、明確で首尾一貫したコミュニケーション戦略の欠如を浮き彫りにした。これらは、特に事故の直後には、至適な事故管理手順の実施を妨げ、当局による過ちや間違った決定を導く可能性がある。また、不信や、直ちに誤報が溢れ得る「情報空白」の状態も引き起こす(R14参照)。

方法

原子力事故への備えのためのプロトコルには、クライシスコミュニケーション(発生している、あるいは実際に発生した事象に関する)、及びリスクコミュニケーション(事故の短期的及び長期的な健康への影響可能性に関する)に関する戦略が含まれなければならない。これらのコミュニケーションでは、誰が政策決定者へ情報提供を行うのか、地方自治体と国内当局間のこの情報のやり取りの流れをどのように調整するのか、そして、そのような情報を一般市民に伝達するためにどのチャネルを利用するのか、などについて事前に特定しておく必要がある。これは、原子力発電所及び地方自治体と国内当局における責任を明確化すること、及び広報担当者を特定することを意味する。リスクコミュニケーションのトレーニングとプロトコルには、影響可能性を予測することのできる特定された放射線防護専門家や科学者に加えて、現地状況を説明することができるNGOや地域社会のリーダーなど、異なった利害関係者とのリエゾンを確立することが求められている。専門家は、意見が相違する可能性と、あらゆる緊急事態に関連する不確実性を認識し伝達するためにトレーニングされていなければならない。また、コミュニケーション戦略は、鍵となる報道記者の特定と、オンライン情報(例えば、ウェブサイト)やソーシャル・メディア・チャネル(例えば、ツイッター)の準備など、事前のコミュニケーション・チャネルの構築を意味する(Perkoら、2016年)。この方向に従って、当局は、原子力事故後の状況に対する備えと管理に関する国家的計画を入念に作り上げるべきである。それは適切で信頼性のあるクライシスコミュニケーションや信頼に基づくメディアとの関係、オンライン・コミュニケーションの取り込み、そして対話空間の設置などに重点を置いた特別な勧告を含んでいる。

担当者

国内当局及び地方自治体、オペレーター、放射線防護専門家、NGO、地域社会のリーダー、報道記者。

医療やその他の専門家、その他の利害関係者に適合したトレーニングや教育資料、資源を準備し、これを促進すること。

背景

過去の事故から得られた主要な教訓の一つは、情報が個人の要求とニーズに適合している必要があるということである。医学生、医師及び教師の教育は、この過程において重要な活動である。欧州には放射線防護に関する多くのトレーニング・プログラムが存在する(表4)が、調査では卒業後のトレーニングが非常に必要とされていることが示され(Skipperudら、2011年)、特に放射線防護専門家の需要が高かった。最近日本において開発された卒業後のプログラムは、見習うべき一例である(表4)。さらに、原子力への備えと緊急対応に関する再教育短期コースが REMPAN、NERIS、REAC/TS といった組織(表5)により放射線防護専門家のために提供されているが、プライマリ・ヘルス・ケアやその他の緊急対応者のための事故前のトレーニングは非常に少ない。さらに、教師や地域のリーダーといった医療従事者以外の専門家は、放射線の直接的及び間接的な影響について十分な情報提供を受けていない。事故が発生する前に、特定の教育とトレーニング・プログラム、資料と資源が求められており、整備する必要がある。

方法

医療従事者やその他の専門家(開業医、看護師、教師)やその他の利害関係者(地方自治体、NGO、報道記者、教師)に適合する技能と知識を提供することによって、放射線防護の備えが推進されるべきである。医療従事者については、well-beingを強調し、線量測定、健康調査、避難決定、甲状腺検査、過剰診断のリスクと不安などに関する情報と勧告を記載した説明書類を準備する必要がある。また、不必要な懸念をもたらすこと無く、一般市民の放射線に関する知識を高めるために、広範な分野の利害関係者(地方公衆衛生当局、NGO、報道記者)により、また彼らのために情報資料が準備されるべきである。この資料は、事故発生時に迅速な基本情報を提供することに役立つ。注目すべき例は、原子力安全に関する欧州の報道記者の能力を強化するための欧州原子力教育ネットワーク(European Nuclear Education Network)と共に世界科学ジャーナリスト連盟(World Federation of Science Journalists)によって企画された2016年のワークショップである(2016年、WFSJ)。

担当者

放射線防護当局、公衆衛生当局、病院、学校、ジャーナリスト協会。

緊急時の備えに関与させ、また、社会経済・健康調査や、適切な状況では疫学に関する計画作成に関わらせることにより、利害関係者(stakeholder)と地域社会を育成すること。

背景

放射線防護、事故管理及び緊急時への備えといった多くの領域にわたって、利害関係者の関与の重要性が認識されている(ICRP 109、2009年 及び ICRP 111、2009年); IAEA、2015年a )。市民の関与は、彼らが自分たちの生活に影響を及ぼす決定に参加する権利を持つという事実によって支持されている。また、かかる関与がより効果的かつ効率的なリスク管理と健康調査に繋がり、更には市民の原子力事故の影響に関する理解を向上させ得るという報告も増えている(ST1及びST2の要約報告を参照)。緊急時への備えにおける(すなわち、「平時」の)様々な利害関係者の関わり合いは、有益な関係と問題点と責任に関する共通の理解の構築に役立つ。

方法

利害関係者の関与方法は、単なる情報提供から、相談、関わり合い、協力、或いは最終決定を住民に委ねることにまで及ぶ(表6)。放射線緊急事態という状況では、初期、中期及び回復期を通じて途切れることなく市民やその他の関係する利害関係者の関与が必要である。従って、関与を効果的なものとするには、備えの段階において出来る限り広範囲に及ぶ利害関係者が含まれるべきである(すなわち、原子力事故の影響及び管理に関する彼らの知識を高めることによる、R7を参照)。利害関係者から構成される委員会は、緊急時への備えにおいては多くの欧州諸国で普及しており(Lilandら、2016年)、そこには幅広い専門家、国内当局及び地方自治体の代表者、公衆衛生関係者及びNGOが含まれている。実際の地域住民や地域社会の関与は、備えの段階では限定されることもあるが、この段階で、事故発生後における市民の関与に関する枠組みが準備され、それぞれの国の個別事情にも適合させておかなければならない。さらに、専門家は、事故後の健康調査及び疫学研究への市民の参加方法について準備しておくべきである(R28を参照)。

担当者

放射線防護当局及び保健当局、国当局及び地方自治体、公衆衛生関係者、疫学者、放射線防護専門家、地域の主要なNGO及び市民団体。

原子力発電所の代表者、当局、専門家及び住民の間で、正確かつ信頼できる情報(例えば、原子力発電所の状況、放射線量、放射線防護活動)の迅速な共有を確実に行うこと。

背景

過去の公衆衛生上の緊急事態が示したように、怖がらせることは、安心させることより容易である。迅速に対応すべく、タイムリーで首尾一貫した公的情報の欠如は、「情報空白」状態が誤った情報で直ちに溢れかえるという状態を引き起こす(ジカウイルスが流行している間、最も人気のあるソーシャル・メディアの健康に関する報道が、最も不正確であったことが最近の研究において確認された(Sharmaら、2017年))。福島事故の2ヶ月後、欧州におけるコミュニケーションの経過は、情報源の分散と、部分的に主観的であり、相矛盾するメディア報道を特徴とした(Prezeljら、2016年)。避難区域の外の地域では、環境中の放射線量はほとんど増加していなかったにもかかわらず、福島県のすべての地域が観光事業の大幅な落ち込み、農水産物の出荷制限。そして誤まった情報のために苦しめられた(IAEA、2015年b)。しかし、ある研究では、事故後のツイートのほぼ70%が非常に信頼できる情報源に基づく合成-派生物(すなわち、第三者情報を含んでいるもの)であったことが示された。危機が身近にあることもまた、信頼できる情報源からの情報を共有する傾向を促しているようであった(Thomson、2012年)。オンライン情報の恩恵は、原子力に関して学ぶための特徴的な機会を公衆に提供し、「internet cacophony」(ネット上の不協和音)に関連する代償を上回るような効果をもたらすかも知れない(Pierpoint、2011年)。

方法

備えの段階において定義されるコミュニケーション戦略(R8)は、以下のために、実施されるべきである:i)科学的根拠に基づく政策決定を行うために、原子力発電所の代表者、放射線防護専門家、地方自治体及び国内当局間において、正確で信頼できる情報の迅速な共有を確実に行う、ii)複数の情報源を用いて、迅速な信頼できる一貫した情報を市民に提供する(Wrayら、2008年;Perko、2014年)(例えば、専門の報道記者、一般報道機関、公的なウェブサイトやソーシャル・オンライン・ネットワーク)。公的なハッシュタグの利用は、#福島ハッシュタグに関して見られたように、誤ったうわさに対する協調フィルタリングとしての機能を果たす可能性がある(Thomson、2012年)。伝達すべきメッセージは、事故の深刻さ、放射線被ばくの可能性、健康へのリスク、推奨された行動指針の費用と利益、そして個人が推奨された行動を行うことができるか否かに言及する必要がある。かかる伝達内容では専門家間でコンセンサスが得られている部分を明確にするべきであるが、同時に、科学知識の限界と緊急な状況に関連した不確実性についても議論する余地も残すべきである。全体的な戦略としては、公衆のリスク認知に配慮し、回復期の政策決定及び施策実施にそれを組み入れられなければならない(Sato、2016年)。相互信頼関係の構築は、このメッセージを公衆に伝達する上で、最も重要な要素である(Ng & Lean、2012年; Rubinら、2012年)。この意味において、この段階で地元のファシリテーターとなる可能性のある人物(R21を参照)が特定されるべきである。

担当者

地方自治体/国当局、原子力発電所運営者、放射線防護専門家、報道記者。

専門家 - 地域のファシリテーター - 住民のネットワークを構築すること。信頼できる科学的情報の普及を支援すると共に、影響を受けた人々が日常生活でのニーズや心配事を表明でき、実践的な助言を受け取ることのできるよう、対話(ダイアログ)の場を設定し、双方向のコミュニケーションを促進する。

背景

過去の事故での異なる状況が分析された結果、類似の問題が確認された。専門家と当局に対する不信、健康問題に関するコミュニケーションの欠如、並びにリスクを最小化する行動と実践に関するカウンセリングと助言を求める強い要望、である。また、事例研究では、地域の状況の特性を考慮した上で、住民のニーズを特定し、彼らのwell-beingを改善するために、住民の話に耳を傾けることの重要性も強調された。過去の評価が強調するように(Nisbet & Chen、2015年)、後期段階である回復期は、必然的に地域社会に焦点が当てられ、そのため、広い範囲の利害関係者によって方向づけされている。

方法

被災した地域社会の立ち直りを支援するために、健全で、かつ信頼性のある科学情報が、放射線の影響を受けた地域社会に継続して発信されるべきである。それは、双方向のコミュニケーションと対話(ダイアログ)により、団体や機関である地元の利害関係者を通じて行われる。地元のファシリテーターと解説者(看護師、教師、地元の医師、地元のNGOのリーダー)が果たす重要な役割は、理想的には初期及び中期の段階で特定されるが(R14)、国と地域レベルの間のリエゾンとして、このプロセスにおいて認識されるべきである。彼らには、住民に耳を傾け、伝達し、かつ、科学的専門性と地域の懸念や状況とのバランスをとるという役割が提供される。例えば、対面型のリスクコミュニケーション(特に看護師やその他の医療従事者によるもの)や対話空間の設置があげられる。そこでは被災家族が彼らの要望や不安を表明し、実際の日常行動に関する助言を受け、かつ、その状況を改善させる手段を特定することができる。疫学研究の結果も、利用可能な場合には、利害関係者と議論されるべきである。

担当者

地方自治体が放射線防護専門家、地域社会のリーダー、看護師、地元の医師、教師と協力。

状況(例えば、個人線量のモニタリング、居住地の除染、心理社会的支援、食品測定など)の進展変化に対応して、防護措置を見直す、解除する、或いは延長するべきかどうか決定する際には、被災した地域で生活する人々の意向を考慮すること。

背景

放射線レベルや健康への影響可能性について不確実性を抱えたまま、被災地域に住むことは、多くの疑問や不安を生じる。ベラルーシ、ノルウェー、そして日本での経験は、被災者との話し合いをせずに除染や防護措置を解除することは、放棄されたという強い思いをもたらし、精神的影響を引き起こす可能性があることを明らかにしている。例えば、利害関係者が関与しないことは、被災領域に戻りたい又は留まりたいという人々の意思を先延ばしにするだけでなく、低下させる可能性さえある。防護措置の変更又は解除もまた、戻ることや留まることを決断した者の不安や心配を増加させる可能性がある。というのは、かれらの決断がこれらの措置が実施されたという事実に左右される可能性があるからである。

方法

除染や防護措置の解除基準(例えば、個人線量モニタリング、居住地の除染、心理社会的支援、食品測定)は、状況の進展、被災者の意思及び必要な支援を提供するための資源の利用可能性に基づいて決定されるべきである。決定は、利害関係者との合意の上で行われるべきであり(R22を参照)、被災者が自らの日々の生活について判断、管理し、そして将来を計画するための十分な情報を得られるまで、支援されるべきである。

担当者

地域被災者、地域社会のリーダー、ファシリテーター、地方自治体及び国当局。

被災した住民と地域社会に対して、長期的にわたる参加を促すこと。具体的には、彼らに政策決定、特に健康調査に関する事項に関与させる。その目的は、介入の妥当性、効率、受容性を改善すること、及び放射線防護の意識を維持するためである。

背景

政策決定と事故管理に被災者及び地域社会を関与させることを支持する主たる論拠は、R13で示したものと同じである。すなわち、生活に影響を与える決定に参加する権利、並びにより効果的なリスク管理と健康調査の達成である(ST1及びST2の要約を参照)。放射線防護に利害関係者を関与させることは長年にわたって議論されてきており、「自助」防衛手段において住民を支援する重要性は広く認識されている(R18及びR20も参照)。健康調査や疫学に被災者を関与させることは、支持するものが増加しているとはいえ、より最近の考え方である(ST2報告書を参照)。これは、関与が住民の健康調査や疫学の関連性と限界への理解を深め、参加に関するコンプライアンス、受容性そして結果の信頼性を高める、という意図がある。

方法

回復期では、利害関係者の関与により、線量測定、健康調査そして疫学を含む広い範囲が網羅することができる。これには、被ばく及び健康データの収集と評価(「市民科学」の実施を含む)への住民の関与、健康調査及び疫学研究の計画及び設計への住民の関与及び/又は除染活動の決定及び実施への参加が含まれる。全ての場合において、利害関係者の関与の成功には、対話スキルの向上を含め、機関(当局)及び専門家からの資源提供が必要であることを強調すべきであり、利害関係者の関与がうまく行っているからといって、被災者への支援を中止する理由とみなされるべきではない。 研究対象を調査及び疫学のデザイン設計に関与させることは、客観性に係る課題を生じる可能性があるが、正しく枠組みが作られる場合には、利点が上回る。例えば住民が懸念する問題に対して、健康調査で実際に対応するように確認するなど。さらに、疫学者は住民の専門知識(例えば、被ばく様式に関する)から恩恵を受けることができ、すべての人が費用がかかるが参考にならない疫学研究を回避するという恩恵を受けることができる。

担当者

疫学者、医療経済研究者、地元の利害関係者、被災した地域社会。

作業員や市民の線量評価に焦点を当てた活動の枠組みを準備すること、その目的は; 1)できる限り多くの個人をモニターすること、特に決定集団(critical group)において、2)将来のニーズのため、結果と他の関連データを収集して保管すること

背景

大規模な測定の実施計画を立てること、及び適切な質の個人線量を記録することの重要性はすでに認識されているところである。しかし、過去の経験から、内部(in vivo)(特に甲状腺)と外部(in vitro)での放射線測定の能力と較正はしばしば不十分であったことが示されている。 困難な状況により、作業員の線量計は、置き忘れられていたり、正常に機能していない可能性もある。概して、線量計測システム、手順及び記録保管における調整と協調の欠如は、主要な改善領域である。

方法

個人の測定に基づく線量評価のための手順と測定器具に関する仕組みは事前に整備されておくべきである。これには、線量再構築、健康調査、疫学及び公衆衛生を含む将来のニーズに有用となるよう収集されるデータが含まれるべきである。計画は資源の観点から現実的である必要があり、線量測定と記録保管手順の調整・協調の促進を目指すべきである。 測定及び線量評価について、これは以下によって実施される:1)決定集団(最も被ばくを受けた可能性のある人々と最も放射線感受性の高い人々)に焦点をあてたガイドラインの作成、2)十分な能力があり、(特に小児に対して)適切に較正された迅速な内部及び外部放射線測定のための計画、3)共有資源に関するプロトコルの改善された標準化を含む内部及び/又は外部測定機器の利用(組織間及び国家間での必要に応じた設備共有)、4)測定された内部及び/又は外部放射線に基づく線量評価のための手順及びツールの準備、5)現地での外部測定が不可能な場合の生体試料又は不活性試料の輸送及び試料採取と発送のための手順の作成、6)特定の住民(例えば教師、医師)に対して、広範囲の線量率記録が可能な線量計を「救急箱」形式として事前配布、7)位置、時間及び移動をマッピングするための測定機器にグローバル・ポジショニング・システム(GPS)の利用、8)バックアップの安全保存や操作不能や紛失した場合に備えて、余分の作業員用線量計、そして、必要に応じて組織間(例えば、病院)での線量計の共有のための計画、9)自己測定のための新しい技術に対する最低限の性能基準の設定と、公的なものと非公的なものとの測定ネットワークの調整、及び10)大量のデータ(「ビッグ・データ」)管理手順の立案。 データ保存について、以下の戦略が必要である:標準化されたデータベースにおける線量測定結果と個人の行動データの収集及び記録、異なるデータベース間の連結、並びに線量測定検査時に記入される、或いは線量を遡及的に評価し良好な再構築を行うために役立つデータとなる作業員と市民に対する個人行動についての単純で簡潔な電子質問票(電力不足の場合の紙の複写物を併せた)の準備。

担当者

放射線防護当局及び保健当局、原子力関係組織、学術組織及び研究組織。

すべての(作業員及び住民両方の)放射線に関連する線量測定データを収集し保管すること。事故直後の放射線防護の観点からは関連しないように見えたとしても、後に正確な線量再構築に不可欠となりうるため、すべての測定結果の追跡可能性(traceability)を確保しておくためである。

背景

過去の事故では、特に初期段階で収集されたデータが容易に失われ得ることが示された。一旦失われると、それらは回収不可能であるか、或いは回復したとしても、その完全性と信頼性は未知であり、その結果として再構築された放射線量に大きな不確実性が生じる。

方法

初期及び中期の緊急事態における困難な状況に関わらず、後の線量評価に有用となりうるどのようなデータも失わないように、あらゆる努力がなされるべきである。初期段階において収集されるデータの種類と質は極めて重要であり、評価され再構築された線量における不確実性の原因を減少させることができる。初期段階では、その他の優先事項(例えば、除染)のために重要に思われないとしても、将来の正確な線量再構築のために重要である可能性があることから、作業員及び住民両方において、すべての放射線に関連するデータが記録/保管されるべきである(表2)。 関連するデータは以下を含む:131I のような短半減期の放射性核種の甲状腺内部被ばく測定。将来の健康調査プログラムや疫学研究の実施に有益な情報を提供し得るためである;(対象者の同意がある場合の)記名式データにリンクした個人線量測定(内部及び外部)、個人の行動記録、そして健康状態に関する情報;表面汚染、環境線量率。生体試料(血液、尿及び/又はその他の体液)の収集可能性を考慮すること。

担当者

緊急管理者:原子力企業/運営者、国民保護当局、放射線防護当局、学術研究者及びその他の研究者、地方自治体。

自分自身による線量測定を希望する住民を支援し、住民の被ばく状況とその後の変化の解析に貢献する、信頼できる機器や資源(例えは、アプリケーション、ソーシャル・メディア、情報センター)を推奨する。

背景

自己測定(例えば、食品中の放射性核種、環境汚染、個人線量の)は、線量再構築や調査の域にとどまらず、多くの目的に貢献することが知られている。このような測定は、個人に情報を提供する機会を作り、自分自身の放射線防護の判断に積極的な役割を担い、自分の生活へのコントロールを取り戻すことを可能とする。チェルノブイリと福島の事故後の経験から、特に、住民が訓練を受け、自分自身で測定するための機器が提供された場合、線量測定器と放射線測定は、住民が状況をより良く理解し、管理する助けとなり得ることが明確に示された(R20を参照)。また、それは、個人の被ばくの理解を促し、集団における線量及び汚染分布に関する情報も提供する。

方法

初期では、測定のための十分なトレーニングの時間がないかもしれないが、検証されたアプリケーションや携帯型で簡単に使用できる線量計の入手方法は迅速に提供できる。放射線防護の専門家の支援と助言に基づいて、このような新しい技術の開発が促進されるべきである。そうでなければ、住民は、インターネット上で広く入手可能な既存の信頼性のないアプリケーションや機器を疑うこともなく利用するであろう。ソーシャル・メディアやインターネット(クラウドソーシング)上のみならず、被災した地域の間でのデータ共有は必然的であり、プライバシーや科学的な質についての懸念を引き起こすかも知れない。放射線防護機関は、この分野に投資し、インターネット上に掲載される測定結果をより良く理解し解釈することを援助するツールを提供する必要がある。同時に、市販されるツールが最低限の性能基準に適合するよう保証することによって、自己測定における不確実性を減少させることを支援する必要がある。地方レベルでは、専門的なファシリテーターの支援が役立つであろう(R20、R21を参照)。被災地外の住民もまた、自分たちの線量が正常のバックグラウンドレベルを超えていないという再確認を必要とするであろう。この分野には、依然としてなすべき多くの課題はあるが、かかる支援は、被災者が放射線防護当局及び専門技術者の提供する情報に信頼を持つことを確実にする助けとなる。

担当者

放射線防護当局、緊急時への備えに関係する当局、技術的な専門家及びファシリテーター、NGO。

作業員及び影響を受けた住民の線量評価を継続する。この段階では、線量測定とモニタリングが放射線防護の知識と文化、そして安心感を増大させ、自分自身の被ばく管理を助け、また、疫学調査を支援するためにも有用である。

背景

この段階では、線量測定は、疫学と健康調査プログラムの支援、並びに住民における放射線防護文化形成のための継続的な支援にとって特に重要である(R18及び20を参照)。

方法

より詳細な線量評価と、初期/中期の段階で収集された放射線量の検証作業は、健康調査への適合、住民への情報提供及び疫学研究の支援のために追及するべきである。集団線量は、生態学的研究(異なる線量レベルのグループ間の時間的傾向とその比較)を通した疫学調査に適している一方で、リスク評価を目的とした分析的疫学調査は、各コホート或いは症例対照研究の参加者について、信頼性のある個人の又は個別化した線量(及び関連する不確実性)を必要とする。疫学調査で予想外の影響の増加が観察された場合、評価された線量の検証と確認が必要となるであろう。この段階でまだ存在する残留被ばく(residual exposure)は監視されるべきであり、新たな放射線被ばく経路が特定された場合、線量評価を修正し適合させるべきである。しかしながら、住民が自らの生活について長期にわたって監視を受けることを嫌がり、スティグマを負わされていると感じる可能性があることを念頭に入れておかなければならない。長期にわたる個人の線量測定調査は任意ベースでのみ想定できるもので(R8を参照)、評価プログラムの継続期間は、経済的要素も考慮して、設定されるべきである。かかる評価に参加する意向を考慮した上で、地元住民は監視プログラムの設計に関与させるべきである。

担当者

学者及び他の研究者、放射線防護当局、地方自治体。

住民に対する線量測定の支援を継続する。適切な専門的相談という支援の下に、個人線量計、モバイル・アプリケーション、食物測定そしてホールボデイカウンタなどの機器へのアクセスを提供する。

背景

個人線量計、食物測定そしてホールボデイカウンタ(WBC)などの機器を利用できるようにすることは、被災者が自らの生活/状況に対して持つコントロールを強化することができる(ST2)。このことは、事故により起こり得る影響の理解に役立ち、かつ、住民と専門家の対話も促進する(Miyazakiら、2014年;Hayanoら、2015年;Miyazaki・Hayano、2016年;Naitoら、2016年)。線量測定に被災者を関与させ、彼ら或いは地方自治体に測定の実施手段を提供することは、被ばくや食事の管理など「自助」改善策を促進し、継続させる。

方法

回復期において、住民が放射線量や放射線能の測定への関与を深めるよう、機器へのアクセスの機会を提供すべきである。かかる措置は、技術専門家の指導の下で実施されるべきであり、初期段階で住民が実施した測定と異なる可能性がある(R18)。機器を提供することは比較的簡単であるが、責任当局は住民に結果と解釈を伝える方法を検討する必要があり、かつ、技術的支援だけでなく、地域の専門家やコミュニケーターの研修など、教育資源も提供するべきである(R21を参照)。中央当局から地方自治体と利害関係者への責任の移行は、事故と国の状況に応じて推奨され、支持されるであろう。測定が、地域社会と専門家、そして住民との対話(ダイアローグ)への重要な機会を提供することから、十分な資源を相談支援に割り当てる必要がある。また、これらの措置により提供できる安心感と権限付与と、住民に問題を思い出させることによるストレスや心配心を強める可能性とのバランスについて検討する必要がある。これらの措置は、参加に関して住民に不当/不必要な圧力をかけることなく、完全な自由意思の下に提供されるべきである。これらの測定の継続期間の判断においては、費用と様々な選択肢における利点、そして経済的要素を考慮するべきである。特にWBCについては、線量評価の誤りは専門家に対する不信感を招く可能性があることを念頭に入れつつ、その結果は計測を受けた人に可能な限り早急に伝達されるべきである。

担当者

放射線防護当局、技術者及びファシリテーター、地元住民。

背景

方法

担当者

被災者から最小限であっても必要不可欠な情報を収集して共通の名簿を作成すること。これにより、効果的な医療と健康状態のフォローアップが可能となる。また、可能であれば、適切な倫理承認の事前取得を前提として、この名簿を関係団体と共有することにより、将来の疫学研究を推進することもできる。

背景

過去の事故後の健康調査や疫学研究の主な限界は、被災者を明確に定義し接触することの困難さと、必要最小限の個人情報の欠如にあった。緊急時において原子力事故の影響を受けた人々の名簿を作成することは、事故後の健康調査と疫学を成功させるための主要な要素である。いくつかの国々(例えば、フランス、イタリア、オランダ、英国及び米国)が、このことを災害後の公衆衛生と疫学研究のための本質的な問題として特定している。

方法

原子力事故の影響を受けたすべての個人、特に避難及び/又はモニターされる人々に注意を払いつつ、彼らの同意を前提として、事故後直ちに或いはその後にでも名簿に登録されるべきである。登録には、識別情報と詳細な連絡先(住所、eメール、電話番号)の収集、フォローアップのための集団ベース登録とその他の健康及び線量登録との関連付け、そして以上すべてに対するインフォームド・コンセント用紙への署名が含まれることになる。初期の被ばく線量の再構築を可能とするために、屋内退避、安定ヨウ素剤服用、そして個人線量評価に関連する情報収集も含むこともできる。 理想的には、すべての情報が事前にフォーマットされたデータベースに収集されることである。それにより、事故の様々な段階で管理に関与する異なるチームや組織によって、共有そして完成することができる。そのようなデータベース(Behbodら、2017年)は、線量測定専門家と公衆衛生担当者との緊密な連携の下で、事前に作成され(R17、R18を参照)、そして事故の特性に適合させることができるであろう(R11を参照)。事故後において、医学・健康調査、そして可能であれば疫学研究、及び公衆衛生研究の基礎として、実際の名簿が維持管理されるべきである。

担当者

放射線防護当局、国民保護当局及び保健当局、地元レベルの行政代表者、学術研究者及びその他の研究者。

事故が社会基盤及び地域の保健福祉にもたらす経済的及び社会的大変動を考慮して、支援を拡大すること。

背景

チェルノブイリと福島事故の社会経済的影響には、生計手段の喪失、労働者の避難による産業の崩壊、輸送及びエネルギーのインフラの崩壊、農産物の市場での販売の喪失(非汚染製品に対する消費者の信頼喪失を含む)、そして人口変化が含まれる(IAEA、2015b)。これらに加え、生活スタイルの変化は、被災者、及び事故による直接の影響を受けていない住民に対してもドミノ的な健康影響を及ぼす可能性がある。多くの避難者にとって、避難解除後に自宅に戻るという決断は、放射線に関する側面と同じように、インフラ(学校、店舗、医療、雇用機会)の利用可能性によって大きな影響を受ける。

方法

インフラ及び地域の保健福祉に関する社会及び経済的大変動の影響に対処するには、補償政策、インフラ復旧の支援、そして除染措置の費用対効果についての全体的評価を含むべきである。補償に関する問題は、チェルノブイリと福島の両事故後に経験しているが、補償政策が十分に練られること、及び、これらの補償政策と他の支援が時間をかけて実施されることが重要である。Well-beingへのあらゆる悪影響を回避するために、補償と支援を受ける期間と条件、並びにその進展については、被災地の住民(例えば、地元の経済及び環境に関して影響力のある人々、避難者、帰還者など)の関与の下に明確にされ、協議される必要がある。除染措置の費用対効果的な分析の実施、政策の変更、再活性化と復興の取り組みの評価は、住民の懸念と優先事項を考慮して、推奨される。

担当者

地方自治体、経済及び環境に関して影響力のある人々、地域社会のリーダー、避難者及び帰還者。

適切な根拠とデザインに基づく系統的なスクリーニング(集団健診)を開始すること。 甲状腺がんに対する系統的スクリーニングは推奨しないが、希望する住民には、それを利用できるようにすること(適切なカウンセリングを行うと共に)。

背景

将来起こりうる原子力事故に備えて、各国が事前に存在する質の高い疾病登録、特にがんに対して、を持つことが重要である。基準となる適切な発生データがなければ、疫学調査によって、事故が疾病の発生傾向に与える影響可能性を評価することができない。 質の良い疾病登録が利用可能な場合にも、特に甲状腺がんは、潜在している、或いは潜伏している疾病の罹患率が見かけ上、増加する場合がある。これは放射線の影響ではなく、善意の医師が俄かに本疾病に対して注意を払うようになったためである。この現象は、福島において明確に認められた。福島では、高性能な超音波診断装置を用いた集団検査によって、非常に多数の甲状腺結節やのう胞、そして、いかなる臨床症状も健康への影響もないかも知れない潜在的ながんが多数発見されている(過剰診断)。甲状腺がんの多数は予後が良好で、かつ進行が遅いことから、スクリーニングは患者に利益をもたらすことがほとんどなく、人々に相当程度の懸念や不安と同時に不必要な治療による悪影響(大半が手術や生涯にわたる薬物療法)をもたらす(Normile、2016年)。

方法

系統的なスクリーニングは、悪影響よりも多くの利益をもたらす(do more good than harm)場合にのみ考慮されるべきである(WHO、1970年)。どのような種類の健康スクリーニングを行う場合も、実施決定の基準は、疾患別登録の利用の可否、疾病の自然史、そして被災住民の人口規模など多くの因子に依存している。スクリーニングの潜在的悪影響と利益について、被災者と良好なコミュニケーションを行うことは、被災者が十分な情報に基づいて判断する上で必要不可欠である。放射線量は、スクリーニングの判断に影響を与える多くの基準の一つに過ぎないことから、スクリーニングが推奨されるか否かの基準として、具体的な放射線量のレベルを特定することは適切ではない。 上記の課題と悪影響により、甲状腺がんに対するスクリーニングは、個人の自由意思に基づいて、推奨されるべきである。そして、モニタリングを希望する者に対しては、適切な情報と支援を提供するという前提の下で、推奨されるべきである。スクリーニングプログラムでは、甲状腺の触診など身体診察に基づいたものが想定されるが、その場合にも、疑わしい事例に限定して超音波検査に紹介されることになる。さらに、スクリーニング以外に罹患率の変動に影響を与える要因を考慮する必要がある(例えば、ヨード欠乏症)。

担当者

保健機関、学者や他の研究者、医療従事者。

疫学プロトコルの枠組みとチェックリストや、個人の線量測定と健康モニタリングのための質問票及び同意書を準備すること、地方・国・国家間の調整により適切なデータベースを準備すること、そして確実に倫理承認を得ること。

背景

過去の事故から得られた教訓は、特に事故前からの組織的な枠組み、資料そしてプロトコルが存在しなかったことにより、事故後の疫学研究の実施が非常に困難であるということ、それ故、根本から準備を開始する必要があるということを示唆している。

方法

欧州では複数の国に影響を及ぼす可能性の高い事故の特性に適合するように、枠組みとチェックリストは、事前に準備されるべきである。これには、以下が含まれるであろう。 • 個人の線量測定及び健康に関するデータの収集と利用のための質問票及び同意書で、異なる言語に翻訳されたもの。 • 放射線被ばくに関連する疾患(甲状腺がん、白血病など)及び被災者が直面する経済的又は社会的困難に関係する健康への間接的な影響(心理的障害、避難の健康への影響など)に特に重点を置いた疫学プロトコルのためのチェックリスト。 • 避難、事故後の被ばく区域の定義、そして除染作業員の状況に基づいた調査対象集団を定義するための事前基準。 • 各機関や行政の役割、活動及び責任を定め、事故後の疫学研究及び公衆衛生研究に関与する当事者を特定すること。 • 重要なデータの収集と保全を可能とし、将来の疫学研究のためのバイオバンク化の実現可能性も考慮した、放射線防護専門家(緊急時測定)、公衆衛生/又は災害管理者(名簿)、線量測定者、疫学者及びその他の研究者によって共同開発された手順。 • 倫理とデータ保護の側面に関連するデータ・アクセス及びデータ共有における潜在的な落とし穴。 • 国内及び国家間の様々なデータベース間の連結を確実にするための地域的、国内的、及び国際的なデータベース構築の調整。

担当者

保健当局、学術研究センター及びその他の研究センター 。

被災者から最小限であっても必要不可欠な情報を収集して共通の名簿を作成すること。これにより、効果的な医療と健康状態のフォローアップが可能となる。また、可能であれば、適切な倫理承認の事前取得を前提として、この名簿を関係団体と共有することにより、将来の疫学研究を推進することもできる。

背景

過去の事故後の健康調査や疫学研究の主な限界は、被災者を明確に定義し接触することの困難さと、必要最小限の個人情報の欠如にあった。緊急時において原子力事故の影響を受けた人々の名簿を作成することは、事故後の健康調査と疫学を成功させるための主要な要素である。いくつかの国々(例えば、フランス、イタリア、オランダ、英国及び米国)が、このことを災害後の公衆衛生と疫学研究のための本質的な問題として特定している。

方法

原子力事故の影響を受けたすべての個人、特に避難及び/又はモニターされる人々に注意を払いつつ、彼らの同意を前提として、事故後直ちに或いはその後にでも名簿に登録されるべきである。登録には、識別情報と詳細な連絡先(住所、eメール、電話番号)の収集、フォローアップのための集団ベース登録とその他の健康及び線量登録との関連付け、そして以上すべてに対するインフォームド・コンセント用紙への署名が含まれることになる。初期の被ばく線量の再構築を可能とするために、屋内退避、安定ヨウ素剤服用、そして個人線量評価に関連する情報収集も含むこともできる。 理想的には、すべての情報が事前にフォーマットされたデータベースに収集されることである。それにより、事故の様々な段階で管理に関与する異なるチームや組織によって、共有そして完成することができる。そのようなデータベース(Behbodら、2017年)は、線量測定専門家と公衆衛生担当者との緊密な連携の下で、事前に作成され(R17、R18を参照)、そして事故の特性に適合させることができるであろう(R11を参照)。事故後において、医学・健康調査、そして可能であれば疫学研究、及び公衆衛生研究の基礎として、実際の名簿が維持管理されるべきである。

担当者

放射線防護当局、国民保護当局及び保健当局、地元レベルの行政代表者、学術研究者及びその他の研究者。

疫学研究の目的と期待される結果を明確にすること。研究デザインと方法の根拠を示し、その限界を説明すること。

背景

チェルノブイリと福島の事故後、多数の研究が実施された。にもかかわらず、有益な情報を与える研究は比較的少数であり、その結果が議論を呼ぶこともあった。その理由は、研究手法における制約、例えば、不明確な目的、不適切な研究デザイン設計、信頼できる被ばく推定値の欠如、そして限定的な統計的検出力などである(ST1の要約を参照)。

方法

疫学研究を実施する理由は主に二つある:1)疾病の頻度(記述的/生態学的研究)及び事故後の変化を客観的に評価するための調査ツールとして、そして2)時と場所により可能な場合には、放射線に起因する影響に限定されない、原子力事故の健康への影響に関する我々の知識を増やすこと(分析的/病因学的研究及びリスクモデリング)。 これらの二種類の研究に関する方法論的アプローチは異なることから、研究の目的を開始時点で明らかにすることが重要である。これには、最も適切な調査対象母集団(住民、作業員、避難者)と、関心のある主たる健康転帰(例えば、白血病、がん、出生異常、循環器疾患、レンズ混濁、甲状腺疾患)の定義が含まれる。転帰と目的に応じて、研究結果に影響を及ぼす可能性のある主たる制限と落とし穴(個人の線量評価の質と関連する不確実性、ヨード欠乏症や喫煙行動などの交絡因子と修正因子、選択バイアス、思い出しバイアス、スクリーニングバイアス等)やその対処方法を考慮する必要がある。分析的疫学研究の開始の判断は、その実行可能性と適切性に基づくべきである。研究がその目標を達成できる能力(すなわち、目的1については最小限の検出が可能な異常発生、そして、目的2についてはリスクにおける有意な傾向を示すことができる能力)を先験的に評価し、関心のある転帰に対して研究期間や期限が適切であること(放射線誘発性の慢性疾患は発現に数十年かかる場合がある)を確認することが重要である。 疫学研究は、研究に参加する被験者の秘匿性と尊厳の維持を尊重して実施されるべきである;そして研究の目的と観察された知見は、全ての関係者に明確で理解しやすい言語で伝達されるべきである。また、疫学研究は、達成された成果と健康及び社会サービスでの利用に関する詳細を提供することにより、調査戦略の費用対効果を知らせる際にも役立つ可能性がある。

担当者

疫学者、医療経済研究者、及び保健機関(国際共同研究を含む)

原子力事故による健康被害の可能性を包括的に把握するため、リスクのある住民のフォローアップの長期にわたる持続性を確保すること。

背景

被災者の生涯にわたる研究(例えば、日本における、原爆被ばく者)は、長期にわたる被ばくの影響を総合的に調査する重要な機会を提供してきた。これは、特にがん及び非がん疾病の双方を含む重要な疾病の多くが長期に及ぶ潜伏期間を持つためである。持続可能な疫学調査と健康調査の基盤を構築することは、フォローアップの中断や中止、被災した個人の捜索と追跡において結果として生じる課題、そして情報の喪失を防止することができる(CO-CHER、2016年)。長期的な調査プログラムも、被災者に自らの健康の進展に関する重要な情報を提供し、その結果、自らの防護を状況に応じて適応できるようにし、長期にわたるwell-beingを向上させることに貢献する。提供された情報は、有効な健康調査プログラムやサービスを計画する上で必要不可欠である。

方法

長期的な健康影響並びに原子力事故後の健康及び社会サービスの利用に関する総合的な評価を提供するために、持続可能なフォローアップが確立されるべきである。かかるフォローアップを有用なものとするには、被災者の被ばくレベルを考慮して、被災者と協議の上、設定するべきである。欧州でのいかなる事故も隣国に影響を及ぼすおそれがあることから、フォローアッププログラムで被ばく集団を完全に網羅することを確実にするために、国家間の協力は必要不可欠である。被災者の健康管理を含む長期的なフォローアップを維持することは、政治的、財政的及び社会的制約に影響される可能性がある。フォローアップを確保する手段には、次のものが含まれる。 • 長期的フォローアップを実施するための資格あるスタッフの維持を含むインフラ(データベース、登録簿、生体試料の収集)の支援。 • 研究の知見及び被災者の懸念に関して、科学者、公衆衛生代表者、政策決定者、地元の利害関係者及び住民代表者(population representative)との間で対話を促進すること。 • フォローアップの経験に基づいて、必要に応じて、フォローアップのプロトコル/手続きにおいて可能な修正を想定しておくこと。

担当者

疫学者、医療経済研究者及び保健機関(国際共同を含む)。

バックグラウンド

将来の放射線災害において何をすればよいのでしょうか?もしくは何をしないのでしょうか?不必要な不安を生み出さずに、被災者の健康調査を改善する方法とは何でしょうか?原子力発電所の重大な事故は稀ですが、過去のこれらの事象は我々の問題解決を助け、将来的な放射線災害の影響を防ぎ、和らげる方法を我々に教示します。これはSHAMISENプロジェクトの目的であり、我々は欧州の資金提供を受けたこのプロジェクトで、最終的な結論をここに示します。.

過去の教訓

18か月のプロジェクトを通して、ヨーロッパや日本の19施設からの参加者とアメリカ、ロシア、ウクライナやベラルーシの専門家と一緒に放射線災害の急性期、初期から長期へかけての何の対応をしたか(もしくは、何の対応をしなかったか)について調査しました。そして我々は主にチェルノブイリ事故や福島原発事故などの過去の原発事故からの教訓をまとめました。また我々はチェルノブイリ事故の影響を受けたベラルーシ、ウクライナやロシアの住民とノルウェーのサーミ人などから生活上の経験を、そして、福島第一原子力発電所(福島原発)事故において住民コミュニティの現在の活動をまとめました。 このような「教訓」は放射線災害への準備と対応や被災者への健康調査への改善に対する提案内容の根本となります。加えて、放射線災害としての倫理的な影響や経済問題なども考慮されました。また、ステークホルダーとの打ち合わせは我々の提案の効果や影響を最大限に引き出すため、プロジェクトを通して実施されました。 我々のプロジェクトの最終的な報告は、放射線災害における準備、初期や中期への対応、復興期の改善に役立つ28の提案から成っています。またそのうちの7つの一般原理に関する提案は、危害よりも利益をもたらすことの倫理的な原則の包括的な内容に加えて、様々なタイプの事故や災害へ応用が可能であると考えます。我々の提案は、被ばく線量評価、避難と屋内退避、健康調査、疫学調査やコミュニケーションとトレーニングなどの広範囲な項目に及んでいます。.

放射線災害の急性期、初期、長期に渡り実施することとは?

添付の図解資料は我々の提案におけるキーメッセージをまとめたものです。一つの主なメッセージは、人々の全体的な幸福を考慮した包括的なアプローチに関する必要性についてです。放射線災害の影響は直接的な放射線被ばくによる健康影響だけでなく、心理的、社会的、経済的が人々への健康へ負の影響を与えることを考慮することが含まれます。重要なことは、ステークホルダーは被災者の自立や自尊心を尊重し、意思決定をサポートすることで放射線災害や他の事故において被災者の心理的な影響を和らげる必要性が求められます。 「平時」の計画は根本的に医療従事者や専門家の継続的なトレーニングや、事故後の疾病の罹患を確認するための疾病登録のデータベースの確立や改善、事前の責任所在の定義、クライシスコミュニケーションやリスクコミュニケーション計画、そして避難計画や避難経路の準備(どのような状況で誰が避難するかなど)を含んでいます。加えて、福島原発事故の解析では、避難命令を出す前に老人や入院患者への避難プロセスに関する放射線被ばくのリスクと他の健康影響のバランスをとることが重要であることがわかりました。過去の緊急事象からわかるように、政府、メディアと住民の間の相互の信頼関係を築くためには住民へメッセージを伝えるための重要な要素が必要であると考えます。上記項目は、迅速にアップデートされて、特定の状況における信頼のある情報や、多くの緊急事項に関する未知な部分を含んだ潜在的なリスクを提供することになります。 また福島原発事故の経験は、復興期の被災者と専門家をつなぐ対話会を確立するための「地域ファシリテーター」の重要性を認識する機会となりました。この対話会は、被災者とともに食品の摂取や帰還に関することについて情報を討論し、被災者の居住環境の復興管理を進めます。情報やカウンセリングは無償ベースとした被災者への健康調査の進捗に重要な役割を果たします。しかしながら、ガンのような疾病の発生における放射線災害の長期影響の研究は立ち上げただけでなく、長期にわたり有益でかつ持続的であることが求められます。加えて、健康調査に関する被災者の参加は、介入により関連性、有効性や容認性を改善することが期待されます。.

レポートからアクションへ

次のステップは、SHAMISENプロジェクトで作成された最終提案報告書を異なったステークホルダー(学術集会、健康と市民防護の政府、EUや担当者のような国際機関)へ届けることとなります。そして我々の最終提案報告書は放射線災害時の被災者に対する健康と生活状況の改善を目的とした計画や政策のベースとして寄与すると考えます。